俺と彼女の第二章

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 まだ勝負は始まってもいないので縁起でもないが、椎名になら例え負けても納得できるだろう。  相手にとって不足はなし――か。 「あ、あの、この間は傘ありがとうございました……」  ぼんやりと椎名のことを考えていたら、ずっと黙っていたくるみがそっと傘を差し出した。 「わざわざよかったのに。この前は先輩が変なこと言ってごめん。彼なりに俺に協力しようとしてくれたみたいで」  「そうなんだ……」  「直接渡せばよかったんだけど、くるみは俺を避けてるみたいだったし、俺が渡しても受け取らないんじゃないかと思って」 「べ、別に避けてたワケじゃないけど……ごめんなさい。やっぱりちょっと気まずいかなって」 「そうだよな」  話題にすると、ふと嫌な記憶が甦ってきた。  火照りで赤く染まった頬とアイツのTシャツを着たくるみがやけに生々しく、脳裏に焼き付いている。
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