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まだ勝負は始まってもいないので縁起でもないが、椎名になら例え負けても納得できるだろう。
相手にとって不足はなし――か。
「あ、あの、この間は傘ありがとうございました……」
ぼんやりと椎名のことを考えていたら、ずっと黙っていたくるみがそっと傘を差し出した。
「わざわざよかったのに。この前は先輩が変なこと言ってごめん。彼なりに俺に協力しようとしてくれたみたいで」
「そうなんだ……」
「直接渡せばよかったんだけど、くるみは俺を避けてるみたいだったし、俺が渡しても受け取らないんじゃないかと思って」
「べ、別に避けてたワケじゃないけど……ごめんなさい。やっぱりちょっと気まずいかなって」
「そうだよな」
話題にすると、ふと嫌な記憶が甦ってきた。
火照りで赤く染まった頬とアイツのTシャツを着たくるみがやけに生々しく、脳裏に焼き付いている。
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