番外~おお、誇り気高き草原の民よ~(後編)

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・ 「何も今日連れて行くというわけではあらぬ──…」 腕を組み、目を閉じてそう語ったイブラヒムを皆見つめる。 「ラティーファ……」 「……な…なに?」 イブラヒムは黒い瞳を据えて真っ直ぐにラティーファを見つめる。 「そなたが首を縦にするまで、余は足しげくそなたの元に通うてくる」 「冗談…っ…」 「……ではあらぬ」 「………」 「父上はそなた次第だと申した。ならばそたなから良い返事を貰うまで通うは当たり前のこと──…」 急に我を見せるイブラヒムにラティーファは息を飲む。飲みながらもラティーファはその表情を徐々に変え、口端に笑みを浮かべていく。 「いいわ……あたしを納得させられるまで通うのは確かに貴方の自由よ」 まるで勝負を挑んだような視線を向ける。そんなラティーファを見つめ、父であるナーセルは少しイブラヒムを気の毒に思っていた……。 プロポーズがまるで果たし状を承けたようになってしまった。そんな娘の性格に頭を抱えつつ、ナーセルは日暮れ前にこの地を早々に発つイブラヒム達を見送る。 ラティーファは山羊の世話でその場には現れなかった。 「貰ったジャムが切れる前にまた足を運ぶ」 「ああ、次に来た時はゆっくりしていけばいい」 肩を叩き、今回の疲れを労うとナーセルはヘリに乗り込む二人に手を合わせて礼をする。 飛び立ったヘリからイブラヒムは今日半日を過ごした草原をゆっくりと目に写した。
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