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俺が昔、金がある時だけ、ここでよく飲んでいた、ウィリアム・ホワイトリー社の上流ブランディッド・スコッチだ。
「私のおごりです。再会を祝って」
「よく覚えていたな」
「客の好みは全部覚えています」
「相変わらずだな」
マスターは糊の効いたシャツにチョッキ姿というバーテンの正装をしていたが、こっちも昔のままで相変わらずだ。
「探偵の仕事は一旦引退したんだな、また昔の因縁でいろいろ動かなくちゃならなくなった。こっちもまた相も変わらずのドブネズミ稼業に逆戻りだよ」
「でも私はもうSではありません。ご協力できる事は申し訳ないですが、何も」
「わかってる。何年も経ってるんだ。今更Sとして動いてくれなんて言わないよ。それにSだったのは、俺がまだデカの頃の話だ。こんな元探偵の情報屋だったわけじゃないよ。まあとは言え、ずいぶん協力してもらって、探偵時代にも世話にはなったけどな、感謝してるよ」
「こちらこそお世話になりました」
「だから今日は、ただ昔話をしに来ただけだよ。昔々俺が、デカとしてセイアンで動き回っていた頃のお話をな。確かあの頃、協力者になってもらったんだよな。その頃の話をしたくてきたんだよ」
「懐かしいですな。ちょうど私の出直しを手伝ってもらった頃だ」
「そうだったかな」
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