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「娘は無事だ。天堂にそう言っとけ」
「え?ああ、わかったよ」
伊吹は俺が、だいたいのことに察しがついていることに気がついた様子だった。
こいつとも長い付き合いだ。
根はいい刑事だ。
すぐ後ろから、ベンツのエンジン音が轟音を上げて響いてくる。
あれだけの量のベンツが、あの工場跡のどこに停まっていたのか知らんが、たぶん工場奥だろう。
その分、俺を追いかけてくるタイミングが遅かった。
だから追いつかれる可能性が、少しだが減ったのはこっちのアドバンテージだ。
理沙はラリっているからだろう、目の焦点がまともに合っていなかった。
あのヤクザどもに、こんな風にされたわけじゃないことはわかっている。
自分で自主的に行っている自傷行為だ。
ほかっておいても死んじまうような女になってしまった。
俺は罪悪感に引き裂かれながらも、理沙に声をかけた。
「大丈夫か。無事家まで送ってやるから安心しろよ。あんな薄汚いとこで遊んでてもいい事はないよ」
「関係ねーよ」
「誘拐したのはあんたの友達の麗子とその男か?あのゴツい連中はどう絡んでる?」
「誘拐?はあ?別に。ただ麗子と遊んでただけだし。そしたら峯岸さんて人を紹介されて、車に乗ったら、あそこに連れていかれただけだし」
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