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グレているんでも何でもない。
壊れてしまっているのだと思った。
俺は過去に蓋をして生きてきた。
理沙から逃げてきただけなのかもしれないと思う。
きっとそうだ。
その間に、理沙はこんな風になっちまった。
俺はこの血まみれの過去に土足で踏みこむしかもう道はないと思った。
理沙の名前を、10年ぶりに伊吹から聞いた時から。
ベンツの猛追は、いよいよ俺のクライスラーの真横まで迫ってきていた。
奴らは、俺の刑事のフリに騙されて、より頭にきている事だろう。
しがない元探偵風情に一杯くわされたのだから、まあわからんでもない。
だがここで追いつかれ、理沙を奪われるわけにはいかない。
今度こそ理沙と最後まで向き合わなきゃならない。
その時携帯が鳴った。
「おい、何でさっさと俺を呼ばねーんだよ。バーテンから聞いたぞ」
ダミ声の低い音が、携帯の電話口にこだました。
「あ、広岡…?広岡か」
「あ、じゃねーだろ。何でさっさと呼ばねえんだよ。色々面倒くさい事は俺の担当だろう。忘れたのかよ」
「え、だってお前、そんなの、何年前の話だ。お前はもう俺のSでも何でもないんだし」
「そんな杓子定規なつき合いをしてきたわけじゃねーだろ。Sだからどうだの、サツだからどうだのじゃねーだろ」
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