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「……『抜いてる』んですね」
『抜く』『抜いている』。自らの超能力を治療・抑制している者への形容表現として、その起こりは定かではないが、一般に流布している。
超能力と呼称されている特異な現象を引き起こす要因が、宇宙開発によってもたらされた細菌であるということは、開発初期から周知されていた。これにより、超能力は病気の一種として登録され、その治療が推奨・推進された。
超能力者の存在は、主にスポーツの世界で厳しい規制の対象となり、先天的に授かった若者も後天的に授かった年長者も、自由意思に関わらず、治療を強制された。
その治療法は、術者の血液から血清を作り、長期に渡り投与し続けること。専用の器具が有り物の組み合わせで早急に開発され、瞬く間に普及、規制を強固なものとした。
その効果は劇的とは言えないものであるが、程度による差異こそあれ、時間さえかければ、超能力などないものであるかのように生活することが出来る。
「お前はどうなんだ? 抜いてはなさそうだが」
「ええ、身体強化系の、電気信号に作用するものらしいんですけど、いまいち実感がなくて」
これは、半分が嘘で半分は正解、のような答えだが、レオには知る由もない。
「それで、読心が通らないってのは?」
「それは、触れた対象の電気信号等を受け取ることで、間接的に情報を得るというのが、読心の理屈ですから」
「へえ、そりゃ知らなかった」
「……まあ、それ以外の事で、うまく扱えた試しも無いんです。そんな超能力の為に、高いお金と長い時間をかけるのも、癪だったもので」
「成程な、気持ち分かるぜ」
「あなたは」
「レオ」
レオは雷電の言葉を遮り、訂正を促した。
「……レオ、きみは、どんな?」
「よくある念動力だよ。しかも弱っちいの。この机一つ運ぶのだって、自力で運んだ方が早いし、疲れないくらいだ」
裏拳から、一本だけ折り曲げた中指で、雷電の座る机を叩く。その口調には、自嘲や幻滅といった、退廃な感情が含まれていた。
将来有望な若者が、突如降り注いできた、頼んでもいないもののために、不要な苦労を強いられている。考えすぎ、というほど間違った推測でもないだろう。
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