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ジル=グリートバードは、何の変哲もない通信端末をスーツ裏に仕舞った。定時連絡の時間を過ぎているのに、雷電からの連絡が到着する気配が、一向にないからだ。
それにしても、雷電と言う男は、誰に似たのか、潔癖を感じるほどに几帳面で、生真面目を絵に描いたような男の筈だ。それが定時の連絡を寄越さないのであれば、何かしらの問題が発生したと考えるべきだろう。
そういう時に、バックアップをするのが、管理者であるジルの仕事だ。
「全く、世話の焼ける」
彼は僅かに逡巡したが、腰掛けた机の引き出しから、古めかしい、折り畳み式の通信端末を取り出した。
これは、ジルが私用に用いているもので、先ほどの通信端末と違い、通信内容を『リカルド』に管理されているようなことはなかった。
「……俺だ。そうだ、仕事を頼みたい。……そうか、文句を言うなと言っておいてくれ。……ああ、とりあえず口頭で説明をするが、追って文面でも送る。確認を…………分かっている」
だからこそ、多少のやんちゃをするときは、決まって、この端末を持ち出す。これを使うときには、普段の仕事をしているときのように、肩肘を張ることはない。
意識しているわけではなかったが、ジルにとっては、一つのメンタルスイッチのようなものであり、同時に、必ずと言っていいほどに、何かしらの面倒を呼び込む。
使う際には、覚悟を要するものでもあった。
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