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「……以上だ、『雷電』」
白いスーツに身を包んだ痩身の男……ジル=グリートバードが、ソファ掛けにちょうどいい高さの木製四脚机に、数枚の紙束を放った。
机を挟んで、向かいのソファに腰を預けている少年は、『雷電』と呼ばれた、中性的な顔立ちの少年であり、手元の資料を斜め読みしてから、先ほど聞いていた情報の確認も兼ねて、大まかな目的と思しき事項を読み上げた。
「……アストラ地区の高校に潜入し、特効薬の流通ルートを突き止めること、ですか」
「ン、上の連中が急に持ってきた仕事だが……それは単なる理由づけだろう。おそらく、お前を外に出しておきたいんだ」
「それはまた、どうして」
「今回の攻撃、目的は見えないが、必ず、お前が出てくるまでは攻撃をする。何度も何度も、出てきた途端に尻尾を巻く癖にな」
ここ一週間ほど、雷電とジルの所属するマフィア組織『リカルド』は、何らかの攻撃を受けている。
それは散発的ながら、二十四時間以上の間を置かず、少人数で奇襲をかけてくる。拳銃片手の連中を捕らえども捕らえども、全く情報を引き出せないのは、おそらく、安奴隷を程度の低い精神掌握によって、銃を撃てる人形に仕立て上げているからだろう。まともな応対など出来ないし、出来たとして、知らないものは答えられない。非人道的な手法ではあるが、理屈の上では分かる手法でもあった。
問題は、どういった組織が、それを指揮しているのか、なのだが、それの判明には至っていない。
「それが不気味というか、心配性の連中は、背後関係を怪しみたくなったんだろう。気持ちは分からんでもないが」
確かに、ジルの言い分は分かるものがあった。全面的な抗争には至らないが、こういう形で襲撃を受ける経験は、これまでにしていない。加えて、そんな襲撃を受けるような覚えも無い。……マフィアという仕事の都合上、常に誰かから、やっかまれていることは百も承知の上で、そうなのだ。
雷電は、改めて手元の資料に目を落とし、一枚ずつ、時間をかけて、めくっていくが、その焦点はぼやけており、集中したものではなかった。
攻撃を対処する折、毎回のように、通常の構成員での対処が間に合わなくなるのだが、そうなると、雷電にお鉢が回ってくる。雷電に、と言うよりは、雷電の『能力』に、と言う方が正しいかもしれない。
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