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「ごめーん待った?」
「んん、私もちょっと遅れちゃって」
「ナンだ、それなら丁度良かった!」
冬の朝、すっかり静かになった学生寮前にて、二人の女子が華やいでいる。彼女たちは高校生、平日の朝ならば当然、登校の義務がある。通っている高校は、お世辞にも成績が良い高校ではない。行こうと思えば、もう二つは格の高い高校にも行けただろう。
選んだ理由はいくつかあるが、特筆すべき事項としては、このアストラ地区において数少ない、能力者を大々的に受け入れている高校だからである。
「んじゃ、そろそろ行くかっ」
「うん、お願い」
はつらつとした黒髪の少女が、どこか儚げなブロンドの少女の掌を握ると、二人の姿が一瞬にしてその場から消えた。
その一瞬の後、二人はクラスに入室、登校を完了していた。
「うーん、何度やってもスゴイ……空間移動登校……」
空間移動。有り体に言えば瞬間移動である。細かいことを言えば、能力者本人が移動するのではなく、能力者を中心とした一定範囲の空間が移動先の空間と交換されるように移動する、という理屈で成立している能力である。
「うん、ついさっきチャイム鳴ったみたいな時間。ピッタリじゃん」
「うむ、ピッタリ遅刻だな、二人とも」
二人は息を呑んだ。いつからそこに居たのか、背後にぴったりと筋骨隆々の男が立っていたのだ。
「エルミナス=リュクルアス! 未だに空間移動での登下校を止めろと言うのが分からんようだな!」
「だっだって楽じゃないですかアウッ」
男が小脇に抱えていた名簿でエルミナスの頭を軽くすっぱたくと、長い黒髪が揺れる。
「成程分かっていないな! 反省文を覚悟しておけ! リィン=ヒューズ! お前は分からん奴ではないと思いたいのだが!」
「ご、ごめんなさい……」
エルミナスとは打って変わって、リィンはそのブロンドをガシガシと撫でられるだけに終わった。
「いやいやセンセ、リィンとアタシで扱いが違いませんこと?」
「お前はさっさと席につけ、着席!」
「それで担任教師ですかっ! 座ります!」
「……全く、今日は転校生が居るんだから騒がせるなよ。すまーん、入ってこーい」
「……はい」
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