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読心能力者の一人であるリィン=ヒューズも、そういった波風を受けてきた。
幼さゆえの過ちを犯すこともあった。偶然に読心能力者であることを知った輩から、謂れなき暴力を振るわれることもあった。なにより、大人はそれを知れども、助けてはくれなかった。
そうして挫けた心を助けてくれたのは、いつでも友人だった。
家族でさえ、いや、家族だからこそ、読心は怖かったのだろう。母が泣いて謝りながら手袋越しに手を握ってくれた光景が、未だ頭に焼き付いて離れない。
無知故の純粋さ、幼さという危うさは、同様に幼いリィンにとっては何物にも代えがたく、それは今でも変わらない。ルミナという友人がいることは、リィンには真に救いであったし、彼女が居なければ、今のリィンは存在しなかっただろう。
……そういった紆余曲折、辛く悲しい経験を人一倍積み重ねてきたことを周囲の人々も分かっているからこそ、アリサのとった行動は、リィンにも、そのクラスメイトにも、常
識はずれ、としか表現できなかった。
「あっああな何やってぅんですかぁああなたっ!?」
「アリサです。握手ですよ」
「そうでなくってですねぇ! っ……」
「ほら手ェ放そうとしない!」
「ちょっやめてよルミナぁ!」
ルミナに背を押され、顔を真っ赤にしながら、今まで出したことのない声を出しているリィンの手を、アリサは更に強く握った。
「……いや何、私も似たようなものでして、読まれないように出来るって、それだけですよ」
そう言って薄く笑うのを見て、リィンの胸中に言いようのない感情が沸き上がる。それが形を成すのを待たずに、一限の開始を告げるベルが鳴り、数学の担当教員が教室の戸を開いた。
「あ、じゃあ! これで、どうも」
「あっちょ、逃げないの!」
リィンはアリサの手と背後のルミナを勢いよく振りほどいて、逃げるように着席し、それを追ったルミナに続いて、野次馬をしていたクラスメイト達も、まばらに自席へ戻っていった。
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