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病院の正面玄関からホールを抜けて、一般の待合室とは別に設けられた受付所。パテーションで区切られた中に、会議室用のパイプ椅子が整然と置かれていたはずだが、モラルの低さからか、元の状態がわからぬほど散乱している。検査専属の職員たちはそんな中、人垣をかき分けながら問診票を渡して回っていた。
「余計な仕事だよな。何が一斉検査。くだらねぇな」
その場にいる皆の気持ちを代弁するつもりで呟くと、
「湊斗、少し黙れ」
勇造が一喝する。
実際、新聞やニュースを見ていても、血液検査について納得できるような説明を政府はしておらず、その緊急性、重要性は殆ど伝わってこない。勇造らが憶測するように、『とんでもない情報』が奥底に隠れていると、どこかで思わざるを得ない状況だ。果たして、この場にいる何割が自分たちと同じ考えでいるのか。検査しろと言われたからする、それで本当にいいのだろうかと、勇造はため息をつく。
受付所の隅、壁により掛かって、吸いたい煙草を我慢しながら行き来する人の顔や仕草に目配りする勇造を見て、湊斗は暇つぶしの質問を投げかけた。
「なんで、刑事辞めたの」
勇造は寄りかかった壁から少し身体を離した。生あくびをしながら隣でうずくまる湊斗に、そんなことを聞かれるとは思ってもみなかったのだろう、酷く驚いていた。
「なんでってか……」
言いながら湊斗にすり寄って、ドシンと床に座り込んだ。そして、待ちくたびれたのか、吐き捨てるように答えた。
「俺は、誰かを助けたかっただけなんだよな」
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