09:手がかり

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 二〇六八年に制定された未成年保護法により、少年事件に関する警察の介入がどんどん難しくなる中、捜査は混迷を極めていく。『未成年者を保護し健全な人口増加を目的とする法律』俗に言う『未成年保護法』は、『二〇歳未満の未成年者に対する性犯罪、虐待、傷害、殺人を行ったものは死刑、または終身刑に処する』と条文にあるとおり、少年たちの人権保護を目的としていたが、その少年らが犯罪を起こした場合には巨大な壁となって警察を阻んだ。逮捕の際、興奮した未成年らを傷付けぬよう、十分配慮しなければならないのは当然のことながら、本当に彼らが未成年なのか、未成年だったとしても犯罪の中でどのくらいの責任を負う立場だったのか的確に見極めることも必要になる。その時々の状況で犯人を傷付けることは、警察自体が罪に問われる危険性を含んでいたし、誤認逮捕で人権が損なわれたとなれば簡単に担当刑事の首が飛んでしまうという重大問題に発展して しまう。  結果として、現行犯逮捕しなければなかなか真犯人を特定できない異常事態が続いていた。河原で発見したあの惨殺死体遺棄事件の犯人も、未だ特定されていないのか逮捕の報道はない。  凶悪事件を引き起こした犯人の共通点は、男女問わず年齢が似通っていることのみ。  そして、政府が緊急実施した血液検査の対象者も同じく、十代後半の少年らであること。  これらがどうにかして結びつくとしたら、湊斗が友人から耳にしたという『ナノ』という言葉だけではないかと勇造は確信していた。医療用ナノの暴走か、あるいは全く別の要因なのか。ナノが原因だとしたら、一体どうやって少年たちに広まっていくのか。――結局はその点で、考えは行き詰まってしまう。  沙絵子も香澄(かすみ)も水田も、勇造がしていることを歯がゆく見ていた。警察への未練なんだと彼らはどこかで決めつけ、日々の業務を淡々とこなすことでしか彼に貢献できない自分たちの無力さを悔やむ。三人とも彼が何故事件にこだわるのかよく知っている。知っているからこそ、それ以上何もしてやることが出来なかったのだ。  *     
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