09:手がかり

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 近頃、勇造は喫煙量が増えた。調べ物と同時に増えていく煙草の量を沙絵子に叱られたが、コレばっかりは自分ではどうにも出来なかった。一般人が探るには難しい事件だというのはわかっている。それでも途中で投げ出すのが嫌で、一人ああでもないこうでもない考えるには煙草は必要不可欠だった。  コンビニまで歩いて五分、千円札をポケットにツッこんで、勇造はいつもの作業着でプラプラ歩いた。秋が近づき、少し肌寒くなった夕暮れ、中にTシャツでも仕込んでくればよかったと肩を震わせた。  郊外にある一ノ瀬の事務所の裏には小さいながらも自宅があって、そこから毎朝七時に出社する。経済新聞に地方新聞、スポーツ新聞、併せて五紙、毎朝読むのを欠かさない。新聞を読むにも煙草が必要で、よく沙絵子に怒られる。だけど、止めようと思っても止められないのが煙草だ。依存性が高い、身体に毒だ、わかっててもつい手を伸ばしてしまう。ポケットの千円だって、煙草二箱買えばすぐになくなる。汗水垂らして稼いだ金を煙草に使うのはやめてと、沙絵子の声が耳元で聞こえてくる気がする。  顔見知りの店主と日常会話を交わし、手に入れた煙草を大事そうに胸ポケットに入れてまた道を引き返す。  家に帰ったらまた資料を漁るつもりで、薄く色あせた晴天を眺めながらぶつぶつ独りごちながら家路を急ぐ勇造に、見知らぬ人影が近づいていた。殺気を感じ敏捷に振り返るが、誰もいない。おかしいなと前を向き直したとき、眼前に影の薄いスーツ姿の男が肩をすくめて立っていた。     
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