09:手がかり

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「煙草、買えるなんて。景気いい証拠ですね」  煙草はいつしか、高価な買い物になっていた。稀に言われるが、この男にだけは言われたくないと思ってしまうほど、そいつは勇造と相性が悪そうだった。 「依存症。ただの依存症だよ」  素っ気なく返事してかわそうとするのを、男は許さない。通せんぼして、無理矢理勇造の足を止めた。ひょろ長い黒スーツはにやりと笑い、 「探してたんですよ。一ノ瀬さん」  懐から名刺を突き出し、勇造に受け取らせた。  名刺に『株式会社経済日報』の文字。勇造の目は急に険しくなった。 「マスコミには用事ねぇよ。第一、経済新聞が弱小会社の社長に何の取材だ。冷やかしはゴメンだな」 「まあまあ、そう言わずに」  勇造が名刺を投げ捨てようとするのを、新聞社の男は両手でそっと抑えた。 「『ナノ』と少年事件の関係を調べていると耳にしましてね。よい情報があるのですが」  身体が反応して無意識に新聞屋の目の動きを見ていた。ズレない焦点、乱れぬ呼吸。場慣れしている。  同時に、沢口の『誰が聞き耳たててるか』という台詞を思い出して身震いした。 「どんな」  駆け引きに負けた勇造が放った一言に、男は満足してにやりと不敵に笑う。 「名刺の裏、見てください」 「何」     
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