10:柳澤生体研究所

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10:柳澤生体研究所

 小高い丘の上、東京の街を見下ろす絶景観が人気の閑静な高級住宅街。およそ便利屋の仕事とは不釣り合いな場所に、一ノ瀬と水田は来ていた。  経済日報の川嶋という男の名刺の裏にあったのは、どうやらこの住宅街にある小さな研究所の住所らしい。地図で確認し、その上でこの場所にある建物の名前をインターネットで検索、出てきた名称に便利屋の大人たちは息を飲んだ。そこが一体何の施設なのか、名称だけで判断するには恐ろしいくらい、自分たちが今求めているものに近すぎたのだ。  得体の知れない男の罠かもしれなかった。  ネットを使っても名称と電話番号しか探れないその施設、念のためアポイントメントの電話を入れたが、愛想のない機械的な声で事務の男が「取材はお断りしておりますが」と体よく断ってきた。「『ナノ』と血液検査について調べているのだが」と水田が機転を利かせて言うと、突然事務員は所長とやらに相談を始め、最終的にOKの返事をもらった。  いよいよ怪しい。  地図の通り軽ワゴンを走らせようやく辿り着いた場所にあったのは、名前からは想像付かないくらい美しい、白亜の邸宅だった。 「『柳澤生体研究所』、ここか」     
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