10:柳澤生体研究所

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 大きなガレージに、高級車が一台。屋敷をぐるっと囲う高い塀と、背の高い木。横書きの表札にあった研究所の名称、電信柱の住所表示。間違いなく名刺裏の場所だ。  白壁に車を寄せて停め、いつもよりかは幾分ましな着慣れぬスーツ姿で、勇造と水田は地に降り立った。いつもは適当に一つに纏めるだけの髪の毛を、今日はキッチリ固めてきている辺り、勇造の並々ならぬ気合いが感じ取れる。  塀の横にあるインターホンを押して電話した者ですがと言うと、どうぞという男の低い声がしてゲートのロックが外れた。  敷地は思ったよりもずっと広い。玄関まで続く石畳のアプローチ、庭中に敷き詰められた芝生に、大きなウッドデッキ、別棟も見える。 「何の施設だよ」  勇造が思わず呟く。  水田は神妙な面持ちでその後を無言で付いて歩いた。  事務員と思われる表情のない男性が玄関を開け放して二人を出迎えた。軽く挨拶を交わしたあと中へ通されると、屋内の様子にまた彼らは萎縮する。  獣の声だ。鳥、猿、犬や、もっと大型の何かの声も聞こえる。 「動物たちの声に驚かれましたか。じきに慣れますよ」  事務の男は言うが、慣れたくもない。勇造はブルッと身体を震わせて、辺りを見回した。     
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