10:柳澤生体研究所

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 廊下の両側に小型動物の檻、少し先にホルマリン漬けの何かが大量に陳列してある。更に奥には大きな扉が設けられ、その先から地を這うような低い獣の鳴き声がしていた。生体研究所と名乗るからには、動物実験か何かをしているんだろうと二人は推測していたが、それにしてもおぞましい。 「何か、変な臭いが」  思わず鼻を擦る。獣の臭いと薬品、薬剤の臭いが混在して、不快感を増幅させている。気が変になりそうだ。勇造がふらっと頭を揺らすのを見て、大丈夫かと水田が囁く。大丈夫だと返事しても、実際は臭いを吸い込まないようにするのが精一杯だ。色々悲惨な現場で仕事はしてきたが、この研究室の臭いは余所とは種類が違っているように思えた。  どうぞこちらへと事務員に案内された応接間、数分待つと、別の男性が煎れ立てのコーヒーを持って現れる。 「すみません、お待たせして。あ、これ。急いで煎れたものですけど」  男はコーヒーカップをそっと各々の前に配ると、正面のソファーに座って二人に名刺を差し出した。 「所長をしている、柳澤圭司です。噂の『便利屋』一ノ瀬さん、お会いするのを楽しみにしていましたよ」  生真面目そうな眼鏡の男だ。三〇代半ば、ノリの効いたワイシャツと白衣、黒いスラックス。いかにも研究者ですよという身なりの、清潔感はあるがなんだか古くさい人物だ。長髪の勇造からすると、前髪が軽く七三に分かれているのがものすごく気になった。  柳澤の差し入れたコーヒーのいい香りが応接間に充満する。     
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