10:柳澤生体研究所

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「こちらこそ、貴重なお話が聞けると期待してます」  勇造もそっと名刺を差し出す。 「便利屋さんみたいな職業の方が、『ナノ』について調べてらっしゃるとは正直意外ですけどね。何か、請け負ってる仕事と関係があるのですか。それとも、興味本位」  名刺を手元に置きながら、柳澤はその鋭い目を勇造と水田に向けた。 「事件現場の清掃を請け負うことが多いんですよ。普通の清掃業者はちょっと遠慮したい、というような、いわゆる凄惨な現場と言いますか。ご遺体を移動した後の血液や肉片の除去、消毒消臭関係ですかね。ああいうのは金にならんもんですから、清掃業者からウチみたいな零細企業に仕事が流れてくるんです。その頻度が最近増してましてね。特に十代の若者が起こす事件の割合が多い。不思議だと思っていたら政府の緊急血液検査。噂じゃ、本当は『ナノ』感染の有無を調べるモノだというじゃないですか。そこで、我々も興味を持ったわけです。その……『ナノマシン』というものに」  本当は何の施設かもわからぬのに、勇造は相手の目を見ながらわざとらしく『ナノマシン』と台詞に入れた。柳澤はその不自然さをわかってか、にやりと笑う。 「仕事がらみの興味本位、ということですか」     
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