11:二つのナノ

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「まぁ、そのようなものです。体内で分解されればよいのだが、中には性質上分解されないのもあってね。ごく微量なんですが、体内に残ってしまうことで、治療の必要ない正常な細胞まで遺伝子を書き換えてしまう事例が起きた。結果、極端な遺伝子異常を起こし、突然死してしまうこともあったんです。『ナノ』というのは、それくらい恐ろしい物体なのですよ。だから国家試験に合格し、きちんと分量と用法を守って投与しなければならない。ただ、医療用ナノマシンに限っては、そうした例は本当に稀だと言うことが近年わかってきた。いくつかのナノの併用だとか、薬との相性の悪さだとか、そういうのがはっきりしてきたのでね。簡単な手術でなんとかなるのなら、無理にナノを使うこともない。切開手術とナノ治療のバランス、二十五年経って、やっとそれがわかってきたような状態なんです」 「なるほどねぇ」  金のかかるナノ治療、自分には縁遠いことだと重いながら勇造は聞いていた。だが、この一般論は勇造も水田も既に知っていたことだった。 「――で、その『ナノ』が少年たちに流行してるってのは、どんなカラクリだと」  思い切って切り出した勇造に、柳澤はフンと鼻を鳴らした。 「あなたたちが、何故ここに来たのか、本当の理由を聞かないことには話せませんよ。経済日報の記者が何故あなたたちを選んだのか。あなたたちは、この研究所がどういう場所か知っているのかどうか。答えようによっては私はこれ以上の発言を慎みたい。色々と絡んでくるのでね」  柳澤の言葉に、暫し硬直した。数分黙って睨めっこをしたが、そこから先の言葉が浮かばなかった。勇造は困ったように頭を掻き、表情を固めている。その様子を見ていた水田が博打に出た。 「この研究所がなんなのか知っていたら、来なかったと思いますよ。何も情報がないから、藁にもすがる思いでここへ来たんです。知っているのは名前と電話番号、それだけですから」  嘘を言っても仕方ない。水田は出来る限り簡素に動機を話した。     
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