11:二つのナノ

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「実はウチにいる、十六歳の新入社員、そいつに来た血液検査の案内がそもそものきっかけで」 「――いや、違う」  水田の話を勇造が遮る。 「違うって、何だ」 「本当は、血液検査の案内なんかより先に不自然だと思っていたんだ。沢口さんが『ヤツから目を離すな』と言ったときから、俺は何か危ういモノを感じていた。十六歳のあいつと度重なる凶悪事件、偶然なんかじゃない、どこかで繋がってるんじゃないかと思ってはいたんだ」  勇造の身体が、ふるふると震えていた。心の中でずっと隠していたものをやっと形にしたような、形にしてはいけないものを形にしてしまったような、そんな震え方。勇造の額に浮かぶ汗がつうと流れるのを見て、水田は表情を曇らせた。 「沢口さんって、元上司の――、そんな話、聞いてないぞ」 「誰にも言ってない。水田さんだけに隠してたわけじゃない。俺の、俺の中だけで解決しようと思っていたことだ」  何故言ってくれなかったと悔しそうに頭を抱える水田の隣で、勇造はすみませんすみませんと何度も繰り返している。すっかり冷え切ったコーヒーを一気飲みし、頭を冷やそうとした。だが、そんなことでは水田のもやもやは消えなかった。 「その、『沢口』というのはもしかして、警視庁にいる未成年事件担当の沢口さんじゃないですか」     
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