12:嫌な予感

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 初月給の一部を財布に詰め、都営団地を後にする。じりじりと強くなってきた日差しの中、大通りまで続く並木道を同じ年代と思われる少年たちが数人、固まりで通り過ぎていく。まだ子供なのに、どこで覚えたのか卑猥な言葉を口にしながら我が家の方向に向かうのを、湊斗は恨めしそうに睨んだ。  同じ世代で、同じように生まれながら、こっちは日中作業着姿で汗水垂らして働き、あっちじゃ悠長にエロい話大声で喋りながら高そうな洋服着込んで歩いて行く。何がそういう差別を生んだのか。経済の低迷、超少子化、あるいはただ単に自分がフィリピーナの子供だからなのか。  コンビニで食い物を漁り、義行が住んでいる団地の公園で待ち合わせた。桜の木の下、ベンチに掛けて昔のようにどうでもいい話をする。立場の違う少年同士、何を話したらいいのか互いに探りながら、何とか時間を過ごした。  木漏れ日が次第に動き、影がベンチから東へと外れていく。代わりに涼しい風が頬をかすめるようになった頃、義行が突然、話題を変えた。 「そういやこの前、お前の母ちゃんをスーパーの辺りで見かけたんだけどさ。相変わらず綺麗だよな。凄い目立ってたよ。――いくつだっけ」 「十九の時の子供だから、今三十五だよ」 「え、マジかっ。若ぇな。あー、確かにそれなら許容範囲だよな。ま、俺はそんな趣味ないけど」  話題が母に触れたことで、湊斗は顔をしかめた。  確かに母は美しい。それは間違いないと彼自身思っていたが、義行にそう言われるのは何となく心外だった。     
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