12:嫌な予感

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 確かに聞いたことがない。ナノマシンが医療以外に使われているなどと。インターネットで調べたところで引っかからなかった。検閲でいちいち削除されているのか、本当に世に知られていないのか。響きからしてもとても穏やかなものじゃない。  勇造はゴクリと唾を飲み、乾いた喉を潤すように冷えたコーヒーを流し込んだ。 「医療用のナノじゃなくて、そんな危険なナノが本当に世に広まっていたとしたら、何となく辻褄は合うな。警察は事実を隠蔽し、政府も本来の意図を隠して血液の検査をしている。――倫理的に見て、本当に日本でそんなことが起きているとはとても思えないが。もし、もし仮にそういう恐ろしいものが出回っているとして、だ。ナノの保有者にはどんな症状が現れるか、柳澤所長は知っているわけですね」  しかし、柳澤は大きく首を横に振っていた。 「わからないね。一口にナノと言っても、いろんな種類がある。断定的な発言は、今の段階ではとてもじゃないが無理だな。ナノの特定、それさえ出来れば、データベース上からナノの引き起こす症状や対処法について調べることも可能だが。政府は噂の真相が広がるのを恐れ、今回の血液検査の分析を民間の医療機関には依頼していないようなんですよ。出回っているのが数種類なのか一つだけなのか、サンプリングできるならもしかして、何らかの対処法をとれるかも知れませんが」 「それは、暗に我々にサンプルを持ってこいと。――そういう解釈でよろしいですか」     
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