13:壊れていく

1/6
前へ
/162ページ
次へ

13:壊れていく

 身体の様子がおかしいのは、湊斗(ミナト)自身よくわかっていた。火照っていた、そしてわずかに震えていた。興奮状態が続いている。薬をやったらきっとこんな気分なんだと思うくらいテンションが高い。  あの日、勇造と初めて会った事件現場を見に行ったときもこんな気分だった。いや、あの時よりも幾分か多めに興奮している。 ――『子供相手に商売してるぞ』  義行の声が脳内で増幅されていく。その度に興奮度が増し、このままでは『突然狂いだして』しまうのではないかという恐怖に襲われる。  早く誰かに止めてもらわないと、何をしでかすかわからない。信頼の置ける大人、誰でもいい。――便利屋一ノ瀬の、包容力のある沙絵子か香澄(かすみ)か、体力のある水田辺りか。ただ一言、『落ち着け』と言って欲しくて、彼は社屋を目指していた。  日が沈み、既に外は真っ暗だ。日中の熱さがほんのり残った生温い風が、湊斗の身体にへばり付いた。住宅街、家々から漏れる電気の明かり、街灯の下を(くぐ)っていく。     
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加