13:壊れていく

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 風で木の葉がかすれる音が、妙にうるさい。変に聴覚が研ぎ澄まされ、鳥肌と震えが止まらない。暑くもないのに口の中が異常に乾いている。そして、激しい頭痛。その痛さが時折気持ちよくて嫌気がさす。気分はハイなのに、身体の内部から何かが悪いものが湧き上がってくるような。  こんな感覚、今までになかった。  足取りは覚束ない。いつもなら二十分もすれば歩ける道のりなのに、社屋まで一時間以上かかる。  変だ。早く、助けを呼ばないと。  湊斗の焦りは更に身体の異変を加速させ、手足から出る汗の量が異常に増えていった。  *  明かりの付いた事務所、請求書や依頼書の整理をする沙絵子の隣で、勇造と水田は昼間の研究所でのことを話していた。社長用の執務机に回転椅子二つ並べ、とんでもない事態になったと男二人、唸っていた。 「要約すると、その『戦闘用ナノ』とかいうヤツに感染したと思われる少年たちが日本中に溢れてるかも知れないってことなんでしょ。それって、もう私たちだけじゃどうしようもないじゃない。警察警察。こういうのは、国家権力で何とかしてもらうしかないと思うわ」  人ごとのように沙絵子は言う。そんなことは二人ともわかっている。 「問題は、湊斗もそれに感染しているかも知れないってことだ。それから、あの所長が言うように、これ以上情報が欲しかったら感染者の血液を提供しなきゃならんこと。簡単に言ってのけるが、かなり難しいぞ」     
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