13:壊れていく

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 昼間はばっちり決めていた髪型が、夜になってほつれた。勇造の一張羅のスーツもすっかりくたびれている。ああでもないこうでもないと、頭をかきむしっているうちにどんどんいつものだらしない勇造に戻っていった。生えかけた髭を手のひらでジョリジョリ言わせながら、さてどうすると水田の顔色を見る。  すると水田も水田で、沙絵子が次々に汲む麦茶を片っ端から飲み干し、白髪交じりの頭をかき回しながら、「そうさねぇ」などと、やる気のない返事ばかりが続いた。 「そんなんだから沢口さんに『何で警察辞めたんだ』なんて言われるのよ。いい加減、未練断ち切って一般人になりなさいよ」  いつもは言わないのに、とうとうブチ切れたのか、沙絵子まで投げやりに言う始末。  大人三人、ため息をついてさてどうしようかと宙を見つめていた。  事務所のある町外れの住宅街はいつも静かで、夕方過ぎると虫の鳴く声がよく響く。開け放した窓から聞こえてくる、コオロギや鈴虫の声。それらをかき乱すような雑音が混じっているのに、最初に気づいたのは沙絵子だった。 「ねえ、なんか変なの聞こえない。誰か外、いるんじゃないの」 「住宅地なんだからいいじゃないか、人ぐらいいくらでも」 「そうじゃなくて。ホラ、ちょっと見てきてよ」  無理矢理勇造の腕を掴み、立ち上がらせた。沙絵子に押され、仕方なく半開きの入り口から顔を出す。アルミの引き戸に少し違和感がある。 「人だ」  勇造の一言に、水田の巨体が動いた。勇み足で入り口に駆け寄り、勇造と一緒に外を覗き込む。     
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