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室内から漏れる蛍光灯の明かりに、サッシに寄りかかる人影がぼんやりと映し出された。
荒い息、激しく動く両肩。
「湊斗、湊斗か」
呼びかけに大きく頷き、人影はそのまま地面に崩れた。
「様子が変だ。――熱、熱もある。水田さん、手伝って。中に運ぼう」
*
休憩室の畳に運び込まれた湊斗の熱を測ると、三十八度を少し超えている。
「風邪だと思う?」
洗面器に水を張り、濡らしたタオルを絞りながら端で様子を見ていた男二人に沙絵子は聞いた。
「確かに、そう見えなくもない」
言った後で勇造は難しい顔をする。
「熱があるなら家で寝てればいいだろ。何でここにわざわざ。それこそ不自然じゃないか」
水田の言うとおり、通勤に数十分かけてくる湊斗がわざわざこの時間訪れる理由が見つからない。どうやってきたのか、酷く疲れた様子だ。
とにかく少し休ませてやろうと、仮眠用の布団を押し入れから引っ張り出し、寝かせてやる。
まだ少し、湊斗の身体に痙攣のような震えが残っていた。
「お母さん、知ってるのかしら。電話、したほうがいいわよね」
枕元で沙絵子が言うと、
「連絡、しないで」
湊斗がか細い声を上げた。
「あの女には、あの女の所には行きたくない。助けて。気が、気が変になりそうだ」
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