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潤んだ湊斗の目を見るなり、沙絵子はいたたまれなくなり、掛けようと手にした携帯電話を放り投げた。湊斗の寝込んだ布団ごと彼を抱きしめ、
「大丈夫、大丈夫よ。今夜はここにいよう。私、ずっとそばにいてあげるから」
柔らかい肌をこれでもかと湊斗にこすりつける。
安心したように数回抱き返し、いつの間にか湊斗は眠りに落ちていた。
*
寝たみたいだよと、休憩室から沙絵子が出てきたのはそれから三十分ほど経ってからだった。少し身体を拭いて、今は布団の上でゆっくり寝ていると彼女は言った。
先に事務所に戻っていた勇造は水田の前で、沙絵子はその隣で肩を落としながら深くため息をつく。
「うわごとのように、『あの女』って何度も。お母さんと上手くいってなかったみたいね。あの時はそう見えなかったけどな」
「思春期だもん、仕方ないだろ」
「勇造は簡単に言うけど、……なんて言うの。湊斗君、かなりの訳あり、だよね」
事務机の定位置に戻り、パソコンと書類を前にして沙絵子はまた、ため息を一つ。
「ねぇ、勇造。もしかしてあなた、あの子が何か問題抱えてるって最初からわかってたんじゃないの。違う? わかってて無理矢理引き込んだんでしょ、何か足元を見るようなこと言って」
「だとしたら、どうなんだよ」
回転椅子をギイと大きく鳴らし、勇造は沙絵子に向き直った。
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