14:何も言えない

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14:何も言えない

 目が覚めると、湊斗(ミナト)の身体はやたらとギシギシしていた。関節が思うように曲がらず、背中と腰が酷く凝っている。  何が原因なのか、湊斗はすぐにわかった。昨日の、あの変にハイな気分と興奮、それから同時に襲ってきた頭痛と気持ち悪さ。きっと、その反動だ。  いつもは朝七時以降勇造が鍵を開けてやっと動き出す事務所、今日はそれよりずっと前から人の気配がする。一ノ瀬夫妻は湊斗を心配し、事務所で朝を迎えていたのだ。  沙絵子は起きてすぐ裏の自宅に戻り、朝ごはんをこしらえてタッパに詰め戻ってきた。休憩室の隅、立てかけていたちゃぶ台を中央に持ってきて、まるでままごとするみたいにそれらを並べていく。  事務所のソファで眠っていた勇造も、寝心地は最悪だったと言いながら長髪をかきむしり、給湯室で髭を剃っている。   昨日あんな状態で駆け込んだのに、一ノ瀬の大人たちは普段と変わらず動いていた。 「一晩、泊めてくれて、ありがと。あのまま家に戻ってたら、俺、どうなってたか」  朝食前、湊斗は深々と両手を畳に付けて頭を下げた。  夫妻は目を見張り、気にしなくていいと愛想笑いする。     
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