14:何も言えない

4/5
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
 白衣姿の家主の不気味さに肩をすくませ、そしてまた小動物の鳴き声と気配に背筋を凍らせる。昨日の勇造らと同じ反応だ。 「ね、ここ、何の研究してるんだっけ」  湊斗が堪らず聞いてくるが、答えようがない。『恐らくナノマシンの研究をしている』くらいしかわからないのだ。  昨日とは別の、診察室のような場所に通される。普通の病院のそれと変わりない造りに何となくだがホッとした。 「彼に何か説明しましたか」  柳澤はそっと入り口の二人に目をやる。事務机に向かった彼の手元には注射針。看護師らしいナース服の女性が一人、付き添いで立っている。 「いや、何も。――湊斗、そこ、座れ」  患者用の椅子に座るよう合図されると、湊斗は戸惑って目をパチクリさせた。 「何、注射? ねぇ、何すんだよ、社長」 「いいから座れ」  力仕事で鍛えた腕で、無理矢理椅子の上に縛り付けられた。自分で座れるよと勇造の腕をふりほどき、 「何するか教えてくれないと、訴えるよ」  などと、その訴える先も知らぬくせに大口を叩く。  勇造は努めて冷静に、出来るだけ本来の目的を知られぬよう、言葉を選んだ。     
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!