15:シロかクロか

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 彼は彼なりに、誰にも言えないものを隠し持っているのだと、一ノ瀬の大人たちみんながそう思い知らされる。 「政府の結果と、研究所の結果、どちらが先に来るか、だな。どっちにしたって、シロならシロ、クロならクロに違いない。けど、最悪クロだった場合、あの所長が何とかしてくれると思うか。あの男、どうにも信用できないんだが」  窓枠に寄りかかり、家路に向かう湊斗の後ろ姿を見て、勇造はぽつりと呟いた。 「信用できないのはあの所長だけじゃない。研究所を社長に紹介した変な新聞記者、それに刑事の沢口さんまで。誰一人、信用できそうにないじゃないか」  仕事から戻り、一服のアイスコーヒーをもらった水田も、勇造の背中を見ながらとんでもないことを口走る。  沢口のことまで悪く言われるのは正直心外だったが、勇造は反論できなかった。同じ警察組織にいたときはずいぶんとかわいがってくれたあの沢口が、人が変わったように勇造を睨み付け、半ば脅しのように低い声で迫るのだ。  それでも、きっとどこかで誰かを信じたいと思ってしまう。 ――『俺は、誰かを助けたかっただけなんだよな』     
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