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初めて彼女を見てから何度もコンタクトを試みたけれど、やがてそれも徒労だと悟り、やめた。写真にその姿を収めようとしたが、フィルムにもデジタルにも、その妖艶で可憐で儚げな美しさをフレームが捉える事は無かった。
それは肉眼だけに映写される、人間だけに許される儚い芸術的存在。人智も叡智も到達する事を許さない、絶対的な幻影。誰にも、僕以外の誰にも知覚出来ない巨人の影。
僕は、彼女に恋をしているのだろうか。
それは分からない。不思議と、遠くを儚げに見つめる彼女は恋人を想う表情を感じ取っていた。一方的に惚れてしまい、一方的な失恋を感じていた。全くもって不可思議な事だ。
だけど、僕はそれでも毎日こうして彼女の姿を見にくる。たった30分の幻影を、僕は心に焼き付ける。
今日も、陽が高く昇り光で世界が満たされるにつれ、彼女の姿は薄れていく。完全な闇夜にも、月夜にも、黄昏にも、真昼にも姿を見せない二百メートルの陽炎の巨人。
いつか、他の誰か大勢と同じく、彼女が見れなくなる日が来るのかな。
そんな事を考えながら、僕は虚空へとフェードアウトする彼女を見送った。
日の出が早くなったら、もっと早起きしないといけないな。
そんな事を考えながら、今日の朝ご飯はなんだろう、と思いを馳せ、僕は自転車のペダルを漕いだ。
何故そうなったかは分からなけれど、僕はそれを受け入れた。
それは、僕だけのものだ。そう決めたのだ。
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