榊とは神の木と書く樹

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「カエセ、カエセ、……ヲカエセ!」  眠りについてから暫くして、嫌な声で目を覚ました。この部屋に再生機器は置いていないし、同居人の櫻井は出張で不在。近くで声が聞こえる筈は無い。  眠りが浅い時は、夢と現実が曖昧になって、していない音が聞こえることもあると言う。体調不良でよく眠れないなら、その現象がおきても不思議ではない。ただ、夢見が悪かったのか酷い汗だ。起き上がるのも怠いが……そもそも、今は何時だろうか?  正確な時間を確認する為、スマホに手を伸ばして画面を見る。すると、不在着信の知らせが表示された。寝た後に誰がかけてきたのかと言えば、出張中の櫻井。俺が電話に出なかったせいか、録音メモが残されていた。 『無視すんなよ、俺達の仲だろ? それとも、そうせざるを得ない状況か? まあ良い。祓いの言の葉を唱えるから、スピーカー再生にして部屋に響かせろ』  少しの間を置いて、古語らしき単語の連なりが、独特の言い回しでスマホから流れた。櫻井の言いなりになるのも癪だが、体調不良で判断力が低下している。スピーカー再生する位、してやろうではないか。  スピーカー再生に設定を変え、部屋に響く位置で櫻井の声を再生する。真夜中、それも丑三つ時に何をやっているのか。我ながら情けなくなりながらも、体がどんどん軽くなっていく現象には助かった。帰宅してからの吐き気も治まり、寒気も感じなくなっていた。
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