一話

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一話

「ササオカ、マジありえなくない?」 クラスメイトの女子たちがコソコソと話しているのが聞こえた。このふたりはクラスこそ同じだけど、別の国というか、別の島というか、接点がない近所の人という感じ。 話し声は聞こえてくるけど聞こえないフリをして、私は走りつづけることにした。 私の高校では、毎年冬に全学年を対象にした、マラソン大会を行なう決まりだった。ふたりは体育の時間に割り当てられた、マラソンの練習に対して文句を言っていたのだ。 長時間走るという行為は非日常だと思う。 普通の女子高生は、こうした授業でもないとマラソンなんてしない。急に非日常を強いられて、不満をぶちまけたい気持ちはよくわかる。 でも私は、そうやって陰口を言うのが好きではなかった。 良い子ぶるとかじゃなくって、なんか情けない感じ。 「森! 遅れてるぞー」 体育教師である笹岡センセイの声が、グラウンドに響く。 大柄なセンセイの声は、グラウンドの端から端まで響くほど大きい。トラックを回っていた私は、必然的に気が引き締まる。 ちなみに、いま怒鳴られたのは私ではない。     
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