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どのくらいの間、思考を停止していただろう。
目の前に広がる情景があまりにも綺麗で、声を出すことすら忘れていた。
花弁が舞い散るなかで、髪を風に靡かせながらヴァイオリンを弾く女性。
身体を揺らす度に長髪が跳ね、踊っているように空気中を舞う。
響いてくる音が身体を突き刺し、奥の方にある芯を潤してくる。皮膚の下がビリビリと蠢き出すのに、不快感がない。
目に映る景色がカラフルに色付いていく。世界にはこんなにも綺麗なものがあったのだなと気付かされる。
この時、自分が造られてから一度も起動させたことのなかった【涙】の機能が、無意識に作動されてしまったのだ。
《回想終わり》
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