6月の祝日

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「夫よ。でも、…」 「強制されたクチか。俺たちポストオリンピックジェネレーションの意思なんてもう…」 「きゃっ」 「どうした?」 「そこのオジサン、若作りなカーネルサンダースだなあって思ってたらさ、いま動き出して超びっくり。ほらほら角の派出所のポリスマンもカーネルおじさんそっくりで敬礼。あははくすぐってこよっか」 バカやめとけ、と頭を撫でてくれた男は小さく呟いた。 「マジそんなかわいいこと言うの、やめて?」 私は自分が人妻だということを忘れそうになっていた。 「…言ってないよ…」 都合のいいとこだけ削除するなんて器用なこと。 「やっぱり私もあなたも帰った方がいい」 立ち止まり、肩にかけられていた男の腕をそっと外した。 「待てよ!」 手首をひかれ、勢いで抱きついてしまった。 「ごめんなさい、恋の日なんて設定のせいで、私どうかしちゃってた」 これが案外心地よくって、離れがたい自分がいる。 「俺、また会いたいんだけど」 「そしたら?」 「次は帰さないぞ。だからあのアプリには…絶対手を出すな」 恋の日のおかげで、分かり合える人に出会えたかもしれないと思った。 「あなたもね」 「一年後の今日。俺、俺はここで待ってるから!」 振り向きたくてたまらなかったけど、そのまま手だけ振って帰宅した。規格品じゃない恋のモジュールを、スローにスローに温めることができたら、一年後の今日、もしかしたら。        
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