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「夫よ。でも、…」
「強制されたクチか。俺たちポストオリンピックジェネレーションの意思なんてもう…」
「きゃっ」
「どうした?」
「そこのオジサン、若作りなカーネルサンダースだなあって思ってたらさ、いま動き出して超びっくり。ほらほら角の派出所のポリスマンもカーネルおじさんそっくりで敬礼。あははくすぐってこよっか」
バカやめとけ、と頭を撫でてくれた男は小さく呟いた。
「マジそんなかわいいこと言うの、やめて?」
私は自分が人妻だということを忘れそうになっていた。
「…言ってないよ…」
都合のいいとこだけ削除するなんて器用なこと。
「やっぱり私もあなたも帰った方がいい」
立ち止まり、肩にかけられていた男の腕をそっと外した。
「待てよ!」
手首をひかれ、勢いで抱きついてしまった。
「ごめんなさい、恋の日なんて設定のせいで、私どうかしちゃってた」
これが案外心地よくって、離れがたい自分がいる。
「俺、また会いたいんだけど」
「そしたら?」
「次は帰さないぞ。だからあのアプリには…絶対手を出すな」
恋の日のおかげで、分かり合える人に出会えたかもしれないと思った。
「あなたもね」
「一年後の今日。俺、俺はここで待ってるから!」
振り向きたくてたまらなかったけど、そのまま手だけ振って帰宅した。規格品じゃない恋のモジュールを、スローにスローに温めることができたら、一年後の今日、もしかしたら。
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