6月の祝日

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恋の日にうきうき弾む気持ちとは裏腹に、強制結婚の解消にはそれ相応の社会的制裁があるのも知っている。それでも夫には別れを告げよう。夫とはどうしてもできない。恋したこともないままで、恋することもないだろう。だって私たちは期待するものが違い過ぎる。 「何…これ…」 飛び出してから半日も経っていないはずなのに、ついさっきまで清潔だった部屋の中は荒れていた。 猫は部屋の隅で毛を逆立ててガタガタ震えている。結婚式のフォトフレームが割れ、ダイニングテーブルごとひっくり返って皿が割れ、瓶が割れ、赤いワインのしぶきを浴びた本棚もクローゼットもゴミ箱もめちゃくちゃだ。白い体液の入ったゴムまでもが白い壁に沿って落ちている。 「……!」 そんな部屋の真ん中でポツンと立ちすくむ夫の耳からは血が流れ、装着したヘッドホンからは大音量のトランスミュージックがここまで漏れている。 (全ての感情を削除しますか) 「ま…待って!だめ!聞かないで!返事しないで!」 この人は、何を! 駆け寄るうちに、うつろな夫は宙に向かって「はい」と呟いた。 「こんなのガラクタよ!操られないでよ!」 悪魔のヘッドホンをかなぐり捨て、夫の意識を覚まそうと肩を激しく揺さぶった。 カクンカクンと首だけ揺らす夫は目も合わさず、ただ声を漏らした。 「あーこわれたー」 おわり
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