今日はタイマムシンの完成の発表につきまして

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 確かにタイムマシンが発明された記念すべき今日というこの日に限って、昨日飲み過ぎて演説の原稿をすっぱりと記憶から失ったうえにその原稿すらもなくしてしまった俺が、一番悪いのではあるのだが、そうしてトチ狂ってタイムマシンをタイマムシンと噛み間違えたわけではあるのだが、それはもしかするとこうして今日この記念すべき日にタイムマシンが作られた未来からやってきたなにがしかの陰謀であるのかもしれないわけであって、それが引き出しを開けたら飛び出してきた青色のタヌキにしか見えないネコ型ロボットが工作員として行ったとしか考えられないという結論に達せざるをえない私(わたくし)のこの苦悩をお分かりか!  ゴホン、というわけではあったのだが、だからこうしてタイムマシンが発明された日であるという今日この日をあなた方に発表する式次第を整えて私自身が一番楽しみにしていたということではあったのだが、残念ながらこうして原稿も、そのタイムマシン自体が存在しないという悲しげで切なげな、特別である今日この日を皆さんにお伝えするということに相成ったのでありました。  至極遺憾であります。  それについては真摯に、真摯に検討させていただきたいと存じ上げます。  そうして俺は演説台にマイクをソッとおくと、急いでしめやかに逃げ出すことにする。きっとこの後俺のタイムマシン開発を信じて出資してくださった方々や公安やただの警察の方々が俺を追い詰めていくことにはなるのだが、タイムマシンをタイマムシンと言い間違えたことを訂正することの方が、至極重要命題であった俺にとって、そちらのほうは仔細問題のない些細些末な事柄ではあるのだった。  ああ、分かっている。――問題しかないことは。
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