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しかし――――。
一ノ瀬咲良は俺の到着を待たず、遠い世界へ旅立ってしまった。
『咲良ちゃん、亡くな……っ』
先に来ていた母さんは静かな廊下の端で泣き崩れた。そんな母さんの背中をさすることしか、俺は出来なかった。
俺はどんな顔をしていたんだろう。
よくわからないけど、上手い表現があるとすれば空っぽだ。そう、空っぽになってしまったんだ。
急に感情を盗られたみたいに、真っ白になってしまった。
事故が酷かったせいで、両親以外は咲良に会えなかった。だから余計に実感がないのかもしれない。
あのドアの向こうで咲良が笑っているんじゃないかって、そんなことを考えてしまう。
事故原因はまだ調査中だが、どうやら車両同士の事故に巻き込まれたらしい。
一台が歩道に乗り上げて、咲良の命を奪ったようだ。
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