黄色と赤

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「今日は特別な日だ」 バイト先に行く前の僕はこんなことをふと思った。 いつもと何も変わらない部屋なのに、何故かそう思った。特別な一日になるらしい。 僕は最寄り駅の下にあるコンビ二で働いている女性気になっている。とってもこの気持ちは単純なもので、シンプルに彼女は容姿が素晴らしかった。 ところで僕はちっとも冴えない大学に通う、ちっとも冴えない大学生で、ちっとも冴えない毎日をただ消化するだけの人間だ。毎日、朝10時に起きてそのまますぐに枕元の携帯を使ってYouTubeをノンストップで1時間ほど見て、それからこたつに入って毎日同じようなことばっかり繰り返している昼のワイドショーを見る。番組の内容など、何でもよくただテレビを「観る」ことに意味があった。 夕方の3時になるとバイトに行く準備にかかる。惰性で髭を剃って、生気のない自分の顔を鏡に映して思いっきり水をかける。優勝チームの決まったペナントレースみたい毎日だった。 いつものようにバイトの前にそのコンビ二をまずは目指す。自分の家の重たい玄関の扉を開くと、信じられないくらいに眩しい世界が待っていた。 外の空気は、確実に温かみを帯びていた。もうすぐ春らしい。 信号を待っていると、赤いポルシェが通った。とってもかっこよかった。僕はその時、今日コンビ二で会計をするとき、レジに彼女がいたら僕は何かの行動をしようと決心した。「何か」というのが何なのか自分でもまだ分からなかった。でも赤いポルシェは僕にそんなことを決断させた。ありがとう、なんて遠ざかるポルシェに呟いてみた。特別な一日とはこのことらしい。 今日の駅は変に人が多い。もうすぐ春だ。駅のロータリーには15、6歳くらいの女子高生達がぼろぼろの赤いチェックの服を着た禿げたおじさんを指差して、笑い転げてる。 僕はコンビ二入ると、敢えてレジの方は見ずにミネラルウオーターだけを選んでレジに持って行った。 もうすぐ春だから。 そこには、もちろんあの彼女がいた。もうすぐ、じゃないのかもしれない。もうすでに春なのかもしれない。
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