ないすとぅみーとぅゆー

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「あれ……お兄ちゃん、どうしてまだ家にいるの? 今日始業式じゃなかった?」 俺クラスともなると、たかだか遅刻等というもので慌てふためく事などない。 中学校が家から徒歩5分のところにある為、余裕綽々で朝食を貪る妹のそんな言葉さえ俺は受け止める事が出来る。そして優しく声を掛けるのだ。 「……おはよう、優。そう思ったのなら起こしてくれてもよかったじゃないか」  トーストを頬張る妹はもごもごと咀嚼を繰り返しながら俺のその言葉に非難の声を上げる。 今日もお気に入りの何の花かわからない花のついたピンで前髪を止めているその子は、まだ中学に上がったばかりだというのに、もう友達が出来たのだとか。 そのパゥワーをお兄ちゃんにも分けてほしい。 割りと切実に。 俺なんてこの春休み、妹以外と全く会話してないからね。 「ん、起こしたよっ、二回も起こしたよっ、お兄ちゃん返事もして起き上がったのに、どーせまた二度寝したんでしょ、自業自得っ! あ、お母さん、一応お兄ちゃんの分のトーストも焼いてくれたけど……」 「……そっか……あ、うん、食べる……」 言葉もない。 ついでに起こしてもらった記憶もないが。 いかんいかん。 妹が本当に起こしてくれたのかどうか、今はそんなことはどうでもいい、重要なことじゃない。 問題なのは、そんな風に実の妹を疑ってしまう、さもしい心理状態にある自分自身なのだ。 リビングから玄関へと続く扉のすぐ傍に乱雑に置かれたサブバックをひょいと肩にかけると、そんな声を優が掛けてきた。 振り返るとトーストを俺に差し出している。 俺はそれを手に取りありがとうを告げ、口に食わえたまま踵を潰して靴を履き、玄関を飛び出す。 「いってらっしゃーい、気を付けてねー」 妹の声を背中に受けつつ、俺は家を飛び出した。 ……ただ。ただ、少しだけ考えてみてほしい。 ここでトーストを加えて飛び出すのは、常識的に考えて俺ではなく優であるべきではなかろうか。 結局目覚めてもたいした思考は出来ず、くだらないことを考えながら駅まで歩いた。 気持ち、本当に気持ちだけ急ぎめに。 八時二十五分。 HR開始時刻は八時時三十分。 家から学校までは電車を乗って一時間。 仕方ない。
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