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講和がなり、強制収容所から解放された日系人、しかし、彼らへの風当たりは厳しかった。本国がまだ帝国としての体裁を整えたのと違い、一時期は黒人以上の厳しい迫害を受けたのだ。
少年だった西条、日本人としては突出して体格に恵まれた彼は、逆にいじめっ子達の格好の標的になったのだった。そのために、彼の性格がかなりひずんでしまったとしても、誰も文句は言えまい。そして、彼は、殺し屋になることを選んだのだった。任務は選ばない。主義主張はないからだ。人を殺して、銭になればいい。仕事の間は面白おかしく生きて、残りの金は、カリフォルニアに居ついた両親に送る。いつ、どこで死ぬかはわからない。それまでの命だと悟っている。
いわば、この仕事は西条の趣味と実益。殺し屋こそ、わが天職。どこで死ぬとしても、それがクソ溜めの中でも、拷問の果てでも、笑って死んでやると心に決めている。
「核爆弾・・ですかい」西条は、どかりと椅子に腰掛け、長い足を組んだまま言った。上司といわれる男が目の前に居ても、それを辞める気は無い。まあ、アメリカ人なのだから当然かもしれないが。「結局、洋上実験で終わったあの、いわくつきの?まあ、そのすぐ後にわが国から情報を盗まれ、ソ連がつくり、中国も続いた。それが、何か?」
”盗まれた”上司の声は、そっけなかった。
「それはまた、間抜けな話で」西条はぶすりと言った。「まあ、どこからです?熊の巣から、それともトラの巣から」
”詳しくは言わんが、米軍からだ”
「なるほど。まあ、我が軍の士気たるや、今や天にも上り、宇宙を一蹴して地下にもぐっていますからな」愛用のバイソンを布で磨きながら、言った。
かなりの重さのはずだが、まるでプラモデルか何かのように安々と操る。別にオリンピックに出るつもりはないから、禁止薬物の筋力増強剤を使っていないといえば嘘になるが、それに溺れることは無い。アホウな白人どもは、地道な筋肉トレーニングよりも手っ取り早い薬に走り、結局、その咎を自分の寿命で払っているからだ。自分が筋肉を鍛える中で薬がそれを支えてくれる感覚。だから、毎日一時間のトレーニングは欠かさない。一時間が短いと思うか?集中してやれば、それで十分。それ以上は筋肉を疲れさせるだけだ。もっとも、それよりも現場での実戦こそが最高のトレーニングなのは、言うまでもない。何よりも、銭になる。
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