メガロポリスの鮫

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 西条は基本CIAに籍を置いているが、本部が許せば、軍の仕事もアルバイトでこなすことも認められている。その辺りが、雇われ殺し屋の気楽なところだ。そのために、日米一年戦争の後の米軍の軍事行動に陰のように出没している。  第二次世界大戦終了後の世界は、当初の想定どおり、連合軍の二強、米ソの冷戦が発生した。さらに、一年戦争の前から日本帝国と死闘を演じて疲弊した中国正規軍はいち早くソ連の後押しを受けた中国共産党軍に背後から奇襲攻撃された形になり、日本帝国が返上した台湾島に追い落とされた。  米の参戦で日本の敗北を必至と見たソ連極東方面担当は、いち早く中国共産党軍の取り込みを画策していたのだ。その意味では、米政府はあからさまに出遅れた格好になる。  米は、新たな中国軍を押し出したソ連との極東地域を巡る戦いを余儀なくされた。中国共産党はソ連の後押しを受けて、極東地域で日本帝国が返上した地域の支配を狙って、水面下での派兵を行ったのである。それは、正式な戦いというより、水面下の暗闘の様相を呈した。朝鮮半島で、ベトナムで、共産党ゲリラに悩む現地政府に米軍が協力する形で死闘が繰り広げられた。  正直言えば、アメリカの兵士には自分達と協力する現地人と共産党ゲリラの区別などつくはずがなかった。そのために、味方と戦っているような錯覚の中で、心を病む米兵が続出した。日本帝国との死闘から途切れの無い戦闘の泥沼に、米の国家内でも人々の疲弊感は根深かったのである。ゲリラとの戦いは、まるでゾンビを相手にしているような呪術的な嫌悪感を齎していた。さらに、主戦派の国会議員が、あからさまな兵器産業からの利益供与を受けて活動しているという事実を人々が知ってからは、それでも米軍の正義を信じていた国民の心を折った。  自分達は、言葉の上ではどうあれ、実態は彼らを儲けさせる為に戦っているとわかってしまったのだ。今や、正義なんてマーベルのマンガの中にしか存在しないことは、米国民の常識になってしまっていた。だからこそ、そんな中で西条のようなタフな殺し屋は、特殊部隊にも重宝したのだ。特に、西条は、文字通り”一人軍団(ワンマン・アーミー)”だったのである。酷暑のベトナムの密林で、寒波の朝鮮北部の荒野でも、西条はきちんと任務を果たし、敵のゲリラ基地を壊滅させて、期限までに生きて帰ってきたのである。
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