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「で、あたしに、その核爆弾を取り返せというのですな」
”そうだ。それが、都市部で使われれば、何十万もの人間が一瞬で蒸発する”
「らしいですな。あたしには想像もできませんが」西条は、口笛を吹いた後で言った。「まるで、SFマンガだ」
”場合によっては、日本帝国の都市に対して使われるところだったのだがね”
「そうですか。興味はありませんが。それよりは、あたしは、あなたの顔のほうが興味がある」
西条に命令を出すのは”ドランケ”と呼ばれるCIAの男だ。しかし、姿を見せず、スピーカからの声だけ。あのTV番組の”スパイ大作戦”の冒頭の命令の拝受と同じようなものだ。こちらはまだ会話が成立するだけ、マシなのだが。
”ドランケ”と名乗っているが、それも本名かどうかよくわからない。もっとも、西条も最初からCIAに正義とか、そういうものを期待したことは一度もないのだから、どうでもいいのだが。腐った連中であろうと、金離れがいいのは間違いない。もっとも、西条が本来受けるべき報酬がもっと高額であるのをピンはねしているという懸念は常に存在するのだが。
ある意味、仲間を作って、その仲間内で話し合って報酬額を比較するような真似は、腐ってもできない西条であった。
ワシントンDC某所にわざわざ呼び出された地下室から地上に出てきた西条は、その明るさに目を潜めた。おもわずサングラスを目にはめる。
自分が一般社会とはかけ離れた、むしろ映画の007とかに近い荒唐無稽な世界の住人であるとわかってはいるが。しかし、"核爆弾"だって?確かに、この時代、それを搭載した宇宙を介したミサイルで応酬を米ソが行えるようにしているのだが。だが、それでも実験はまだしも、まだかつて一度も実戦では使われたことが無いのだ。で、間抜けどもが盗まれたそれを奪還しろといわれても、どこかピンと来ないのだった。自分が映画の中にいたはずなのに、気がついたらトムとジェリーのアニメの中の住人になっていたといわれるようなものだ。マジメに受け止めろという方が、難があるだろう。だが、それはそれだ。奪還して帰れば、銭になるのだから、それが迷子の猫であろうと、性悪のねずみであろうとどうでもいい。そう西条が割り切るのに、それほど時間はかからなかった。
盗まれた核爆弾は、フィリピンの米軍基地から盗まれ、日本帝国に流れたらしい。
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