メガロポリスの鮫

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 日本は一年で戦争を上手く回避したのは事実だが、その分、日本帝国がそのまま生き残ってしまったのがよかったのか、悪かったのか。意見の分かれるところであろう。日本帝国住民は、それが当然だから気がつかないだろうが、いくら”生まれ変わったつもりで”と戦後を生きるように求められても、所詮は虎は虎でしかないわけで。  アメリカ育ちの西条だから分かること。いくら民主化したといっても、明治建国当時よりは・・という比較の問題でしかないのだ。海外の領土こそ失ったが、今でも”東洋一の国家”という周辺国家に対する驕りは抜き差し難いものがあった。貿易はしているが、正直、日本人に他国民からの人気は少ない。しかし、日本人の側にはその自覚はまったくないのだった。  たとえば戦争賠償は、講和時に日本国民が手持ちに持つだけで引き上げたときに残してきた大量の社会インフラということになる。賠償のはずだが、日本人はそれを提供してやったという高慢な意識のままなのだ。それは米国人も似たようなものだという意見があるが、正直、米国人よりもひどかった。ミカドは開明的なのだが、国民は、そうではないという感じか。  そんな中で日本帝国軍はアメリカの軍事同盟国として朝鮮半島とベトナムに出陣した。いずれも、小競り合いで終わったが、共産党ゲリラとの殲滅戦で消耗したのは日本も一緒だった。米軍と同じように前線で麻薬を覚えた兵士達が、本土にまでそれを持ち込んだ。それが社会を蝕むようになるまであまり時間は必要ではなかったのも、同じだ。日本も、その撲滅を断念し、その被害が甚大にならなければと、半ば黙認するようになっていったのもアメリカと同じだ。  そして、西条の知る限り、鉄のカーテンで情報の閉ざされた共産圏のソ連と中国・・中国人民共和国だ・・でも、それは同じように麻薬に犯されているらしい。日米に麻薬攻撃を仕掛けた中ソの側にも、麻薬が蔓延する。どうも、自分達の情報部ではなく犯罪組織にそれを任せたのが裏目に出たらしいが、それ以上のことは西条の知ったことではない。ただ、いえるのは、結局そうした代理戦争の結果、日米も中ソもともに麻薬に侵されるようになったということ。それは、必然的に、社会の退廃を齎す。  麻薬組織から金をもらった政治家が国会を跋扈し、日米ともに社会がぼろぼろと壊れていくのを、人々は呆然と見ているしかなかった。
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