メガロポリスの鮫

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 自分達がそれを改めようと考え、行動すればよいはずなのに、心の中の何かが折れてしまったらしい。自分達のしていることのはずなのに、”こんなはずはない”と呆然としているとでもいうのだろうか・・人々は活発に働いている、エドメガロポリスの建設で、むしろ戦前以上の繁栄を謳歌しようとしているように見えるが、しかし、覇気のなさは歴然としている。  西条は、羽田空港から出て、そんな江戸市の中を歩いていた。車で移動してもいいが、とりあえず歩いてみるというのが、西条のスタンスだった。旅客機の中では、眠るしかすることがないからだ。目を覚ますためというのが主な理由だが、こうして彼なりに考えをまとめるのだ。江戸市の下を網の目のように走る地下鉄も、とりあえず使わない。  盗まれた核兵器というのは、いわゆるのミサイルの先端に搭載する"核弾頭"ではない。核弾頭の材料になる爆発性のある核物質を作る段階で、副産物として生まれるカリフォルニウムという元素はごく少量でも核爆発を起こすことが知られていた。なかなかに抽出のむずかしい物質らしいが、フィリピンの軍事基地にある研究所が開発に成功したらしい。情報では、バズーカ砲の弾程度の大きさで。だから、何か他の荷物にまぎれさせ、基地の警戒の網をすり抜けることができたらしいが。冗談はヨシコさんだ。いかに実験前の正体不明のシロモノであっても、だからこそ、管理を厳重にすべきだろうに。このカリフォルニウム核弾一つで町の一区画は余裕で消滅させられる。  しかし、その程度の範囲であれば、通常爆弾の大きいものでも出せる爆発力なわけで。都市を丸ごと吹き飛ばせる超兵器が”売り”の核兵器。それをわざわざ小型にしてどうするかとでも、軍のやつらは考えたのだろう。非合法工作員の西条からすると、そんな超兵器こそ、垂涎の的なのだが、おのずから発想が違う人種というものは存在する。だから、せっかくの発明品をほっぽっていたのが流出したといったところだろう。  それを買い取ったのが、この江戸市になわばりを持つ”東明会”というヤクザだった。そこまでは、CIAはつかんでいた。しかし、それ以上はわからぬ。まあ、盗まれたのが分かって四日でここまで掴んだのだ。陰で無能呼ばわりされるCIAとしては良くやった方、なのだろう。
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