文学部

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文学部

ところどころペンキの剥げた扉。 その上にある文学部(仮)と書いてあるプレート。 よく見るとその隣にには銃を構えた軍人のフィギュアがある。 開けたくない。 文学部室の扉の前に着いた私は先ほどまでの高揚感はどこへやら。扉を開けるのをためらっていた。 よく考えたら部活動体験なんて一人じゃなくて友達ときゃーきゃー言いながらやるものだ。 少なくとも一人で恐々扉を開けるものではないはず。 やはりふうりが来るまで待つべきだったか。 もじもじしていると部屋から声が飛んできた。 「誰かいるの?文学部に用?」 恐らくすりガラス越しで私に気が付いたのだろう。突然のことで驚いたが、何にも返事しないのは失礼とおそるおそる扉を開ける。 「えっと、私、一年の笹本と申します。文学部に入部したいのですが。」 部屋は比較的小さく元々保健室だったのか天井にはカーテンレールが中央にぐるりと走り、その下に会議用机が五つ、島を作って並べられている。 壁際には様々な棚とロッカーがあり、一つにはなぜか大量のぬいぐるみが溢れていた。 そして正面に机に足をのせて本を片手に鷹のように鋭い目をむけている女子生徒が一人。 「ふーん、私は部長の文川純(ふみかわ かすみ)。よろしく」 険のある声でそういうとすぐに本を読み出した。 ……………。え、どうしろと。 文学部は廃部寸前とは聞いていたが部員はこの不良っぽい人、一人なの?? というか部として機能してるのか? もしかしてとんでもないことしちゃったんじゃ……。明らかに入部する扱いになってるし。 あー、謝ったらどうしかなるのかな。なんで謝るかわからないけど。 「ぼーっとしてないで帰るか座るかしろよ。なんならそこにある本を読んでもいいぞ。なかなかいい本が揃ってる」 困っている私に目もくれず彼女は言った。 とりあえず質問をしようか。 質問をすれば少なくとも会話は成立するきっかけになる。 「あの、すみません。私、まだ何にもわからないといいますか、文学部がどういうところなのかわかっていないのでそのー、恐縮ですが文学部の活動について教えてもらいたき所存にございまして………」 自分でも何言ってるのかわからないが意図は伝わったようで部長はめんどくさそうに顔を上げて。 「あーんとな、ここは文学部。 文学について研究、追及する部活。 活動はたまにある大会と文化祭。大会は応募したかったら勝手にどうぞ。文化祭では漫画部と共同で部誌を出す。 部員は幽霊が多すぎて把握できてないけど実働は私一人。 こんなものでいい?」 矢継ぎ早に言われ戸惑うがともかく一応部活ではあるらしい。ふうりは本当にこんな部活に入りたいのか。 「あ、はい、了解です。もうすぐ友人が来てそいつも入部します。はい」 もっと聞きたいこともあるのだが雰囲気に押されて、座ることにする。 あ、でも、一つだけどうしても聞かなければならないことがあった。 「あ、あと、この部活って兼部は可能ですか? 美術部にも入りたくて……」 そういうと先輩が少し笑う。 「大丈夫だよ。ふふ、にしても美術兼文学部か。ついでに音楽部でも入っちゃえば?」 「どうしてですか?」 「いろいろなベクトルの芸術を学べるから。 さっき文学を研究とか言ってただろ。 ならそもそも文学とは何かと問われれば文字形態における芸術の一つ、つまりは音楽や絵画と同じようなものと答える。 ただ同じ芸術といっても目的が同じなだけで文学、絵画、音楽はあんまりにも違う。 その全てを学んだ奴の書いた文章は面白いなと思っただけだよ。とはいえ音楽部は厳しいから兼部は出来ないだろうがな」 「先輩、入ったらどうです?」 暇そうですし、とはさすがに言わないが。 「私は音楽がさっぱりできないからな。音楽自体は嫌いじゃないが音程が聞き分けれない」 そう話している先輩は初めの猛禽類のような顔とは同じに思えないほどに穏やかだ。 案外いい先輩なのかもしれない。 しばらく雑談をしていたが話題も切れ、暇になったので先ほど薦められた本を読むことにした。 文学部というからして純文学の本ばかりかと思いきやジョブナイルやミステリーなどの小説から漫画やら週刊紙などが無秩序に並べられている。 やはり思っていた以上に緩い部活に違いない。 一時間ほど本を読んでいると下校時間になった。活動といえる活動はほとんどしていない気がするが本を自由に読めるのは悪くない。本当に入ろうか。 校舎を出て校門でため息1つと共に愚痴を吐く。 来ると言っていたふうりはどこに行った。
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