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夜の山で、一緒に花見をした相手は妖怪や悪魔や女神やカミサマだ。さっきは桜の精を自称する不思議な女の子がいたし、もうここがホラースポットなのではと思う。なのに、平気である。
私はいったい、何が怖かったんだろう。
「簡単な話さ。よくわからないものは『怖い』と感じるんだよ。ただそれだけの話」
九織さんが、私の肩に手をのせた。
この人もいつもよりボディタッチが多い。もしかしたら酔っぱらっているのかもしれない。
「知ってるから、怖くない」
「そう。僕らがキミに危害を加えないとキミはもう知っている。だから怖くないんだ」
「なるほど……それはそうかもしれません」
ポイントは危害を加えるか加えないか、だろう。
九織さんと一緒にあの食人木を見に行った時、私は危害を加えられるかもしれないから──怖かったのだ。なんて臆病な話だろう。
けれど、そうだ、きっとニンゲンも他のものも、みんながそうなのだ。
もしお互いがお互いを知ろうと努力できれば、もしかしたら世界の皆は和解できるのかもしれない。……あくまで、もしかしたら、だが。
「みんなには、怖いものとか、あるんですかね」
「さあ、どうだろう。他のみんなはどうかわからないけれど、僕にはあるよ」
正確には出来たというべきか。
九織さんはそんなことを呟いた。
「キミという従業員を失うのが怖い」
思わず呆然としてしまった。
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