08:夏の準備。

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 それはきっと、私の周りに二十八年間まとわりついてきた固定概念(こていがいねん)だ。先入観ともいうのだろうか。これはこうである、といった思い込みだ。  どこかの偉い学者がそう発表したから──とか、テレビでもっともらしくいっていたから、とかそんな程度の理由だ。  人外の皆様は、今のところ私を歓迎してくれているようだが、その歓迎も今考えると胸がいたい。  だって私は、見えるニンゲンだったのに。  気付きもせずに、存在するかしないかの論議も子供ながらに馬鹿馬鹿しいとかいって大人ぶる、現実を見ているフリをしていたニンゲンの一人なのだから。  ぎゅ、と思わず自分の腕を、自分で掴む。 「竜子ちゃんくらい物分かりのよい子もいないだろうけどね」 「……慰めてくれてます?」 「もちろん。そして誉めてる。僕の従業員はやはり最高だとね!」  ぷしゅーっと九織さんの体から蒸気が噴き出す。  ほんと、どういう仕組みだよ。 「反省して、自らの問題を受け止めるのは良いことだとも。キミは常に成長しようと頑張ってる。誰にだって出来そうなことだが、『出来る』わけじゃない」 「……」 「誇りなさい、竜子ちゃん。大人になっても素直でいられるのはキミの長所だよ」  不本意だが、励まされてしまった。  ぽんと背中を叩かれて、元気が出た。  私を理想の従業員だというなら、九織さんだって理想の上司だ。     
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