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公園のベンチに、空を眺める怪しげな男が見える。いや、男かどうかは定かではない。何しろその頭部は、怪しげなローブで隠れてしまっている。その近くでは、夕方近くだというのにまだ子供がたくさん遊んでいて、それを眺める母親の集団がやはり存在している。が、誰一人、みるからに怪しいその男には、見向きもしない。
それはあからさまに異常だった。
男もそうだが、周囲もだ。自分以外の世界すべてがおかしいのか、はたまた男が見えてしまっている自分がおかしいのか。
男は、空から視線を落とすと、不意にこちらを見つめた。
私の視線に気づいたかのように、じっと視線を返してくる。
どうしたものか。
視線を外そうかと悩んでいると、男はすっと立ち上がり私の方へ歩いてきた。
(おっと、困った)
怪しげな人物が近づいてくる。私の第六感が警告音を頭の中で鳴り響かせている。
今すぐ走って逃げるべきだとは思うが、街の中を意味もなくうろうろした私の足は、いうことをきいてくれない。
ほどなくして、男は私のすぐ近くまで来た。
通行人は、無意識なのだろうか、何のリアクションもせず、ただ彼をよけていく。まるで木をよけているようだ。『彼』というものを認識していないように感じる。
「お嬢さん、何かお困りかな?」
「…………」
「そうだんまりを決め込まずとも、安心なさい。僕はこの通り周囲から認識されないような魔術を行使しているが、とくに悪い魔法使いというものでもないのだ」
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