00:みえるもの。みえないもの。

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 おおっと異常な人物だったようだ。なに、魔法使い? 何をいっているんだこいつは。  もしかしたら、この街ではわりと有名な頭のおかしい人間なのかもしれない。そう思うと、仮にこれが幽霊だったと考えるよりも恐怖がわいてきた。 「ふむ、見えているのだから、聞こえているとも思うのだが。まあいい。疲れ切った君の姿恰好 や心を覗き見ればおおよそ何をしていたか、何に困っているかは推測がつくというもの。……ほほう、君は……ああ~」  恐怖を、怒りが乗り越えてきた。  狂人だったとしても、その声音が出した表情が気に食わなかった。私を憐れむような、そんな声音だった。私がキッとにらみつけると、彼は、「ああ、すまない」なんていって少し後ずさった。──そうして、彼はそっとフードをとった。  その頭部に、私は言葉を失った。  絶句する私に、彼は、その手で顎をさすりながら、こう言った。 「君、もし職を探しているのなら、僕の店で働いてみないかい?」  それが私と彼との出会い。  九織魔術用品店で働くことになる、キッカケの言葉である。  
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